バージンロードで始めましょう～次期社長と恋人契約～

ブライダル界の華麗なる御曹司

　中世ヨーロッパ系の美意識を彷彿とさせる礼拝堂の大窓から、淡く優しい光が燦々と差し込んでいる。

　真紅の薔薇の花びらを一面に敷き詰めたバージンロードに、ロングトレーン・ウェディングドレスを身につけた長身の花嫁が佇んでいた。

　パイプオルガン演奏の盛り上がりに連動して視界が徐々にズームされ、極薄のヴェールに透けた美しい横顔がアップになる。

『永遠の愛が、ここから始まる』

　女性のナレーシーョンで締めくくられるこの映像は、私、倉本亜寿佳（くらもと　あすか）が勤めるブライダルハウス、『ボヌシャンス迎賓館』が全国放映している最新ＣＭだ。

　サロンに設置されている、特大モニター画面に流れているＣＭを、先ほどフィアンセと連れ立って来館されたばかりの女性客がうっとりと眺めている。

　現実から飛んじゃったような夢みる表情は、ここを訪れる女性特有のもの。

　だってもうじき自分もあのＣＭと同じチャペルで、あんな風に美しいドレスを着た花嫁になると思えば、心が踊ってしまうのも無理はない。

　私はニコリと微笑みながら、接客用テーブル越しに挨拶をした。

「いらっしゃいませ。ボヌシャンス迎賓館へようこそ。ご予約の須藤様でいらっしゃいますね？」

「あ、はい。須藤です」

　ポーッとした表情で画面を見つめていた須藤様が、私の方に振り返る。

　須藤様のお隣に座る男性が、ご自分のフィアンセのそんな様子をからかった。