バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
庭の片隅で打ち合わせを始めた事務所の人たちの会話を聞きながら、考えるのはそのことばかり。
仕事中なんだからしっかりしなきゃと思っても、波打つ胸の音がうるさくて、なにひとつ耳に入ってこない。
「お疲れさまです。担当の名取です」
やがて背後から足音と共に彼の声が聞こえて、私はハッと息をのんだ。
すぐに両頬がカーッと火照り始め、私は隣に立つ彼の横で、赤くなった顔を見られないように下を向いて体を固くする。
副社長と事務所の人たちの話を横で黙って聞きながら、恐る恐る視線を上げれば、そこには何事もなかったように平然と仕事を進める男がいた。
その表情からなにかを読み取ろうとしても、生真面目で淡々とした視線や口調からは、掌に口づけていた仕草の真意をうかがわせるような物はなにも窺えない。
そもそも私、彼の中から、なにを読み取ることを望んでいるんだろう。
私たちは単なる上司と部下で、利害関係の一致した『偽装恋愛』以外のなにものでもないって納得しているはずなのに。
なのに、なにかが私の中で、駄々をこねる子どもの手足のように暴れている。
騒ぐ胸に手を当て、私は隣の男の存在から逃れるように視線を逸らし、木々の枝先でさえずる小鳥の姿を見つめていた……。
仕事中なんだからしっかりしなきゃと思っても、波打つ胸の音がうるさくて、なにひとつ耳に入ってこない。
「お疲れさまです。担当の名取です」
やがて背後から足音と共に彼の声が聞こえて、私はハッと息をのんだ。
すぐに両頬がカーッと火照り始め、私は隣に立つ彼の横で、赤くなった顔を見られないように下を向いて体を固くする。
副社長と事務所の人たちの話を横で黙って聞きながら、恐る恐る視線を上げれば、そこには何事もなかったように平然と仕事を進める男がいた。
その表情からなにかを読み取ろうとしても、生真面目で淡々とした視線や口調からは、掌に口づけていた仕草の真意をうかがわせるような物はなにも窺えない。
そもそも私、彼の中から、なにを読み取ることを望んでいるんだろう。
私たちは単なる上司と部下で、利害関係の一致した『偽装恋愛』以外のなにものでもないって納得しているはずなのに。
なのに、なにかが私の中で、駄々をこねる子どもの手足のように暴れている。
騒ぐ胸に手を当て、私は隣の男の存在から逃れるように視線を逸らし、木々の枝先でさえずる小鳥の姿を見つめていた……。