バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 貴明がその事実に気づいたときには、もうかなりお腹が大きくなっていて、産むしかない状態だった。

 相手の女性は貴明の幸せを願い、泣く泣く身を引いて、愛の結晶をひとりで育てる覚悟だったらしい。

 彼は衝撃の事実に驚愕して、勝手に答えを出してしまった。

『本当に死ぬほど悩んで迷ったんだ。でもこんなにも俺を愛してくれている女性と、罪のない我が子を裏切れない。責めるならどうか思う存分俺を責めてくれ』

 両家の親戚一同まで巻き込んだ大騒動になったけれど、結局そんな言葉を最後に彼と私の日々は終わりを告げた。

「私も心から彼を信じていました。だからもう、悪い魔女に変な魔法でもかけられてるんじゃないかと本気で思いましたよ」

 少しばかり笑いの混じった声でそう話す私の顔は今、困ったような、情けないような、さぞ複雑な表情をしていることだろう。

 こうして思い出すのは、あの衝撃を受ける直前に、職場の仲の良い同僚たちと『明日、式場でね』って笑顔で手を振り合って別れたこと。

 式に出席する親戚も自宅に泊まっていたし、大学時代の友人もわざわざ集まってくれて、二次会の計画を立ててくれていた。

 新婚旅行のスーツケースもホテルに送ってしまっていたし、婚姻届けも記入済みで、あとは役所に提出するばかりだった。
< 99 / 206 >

この作品をシェア

pagetop