目は口ほどにものをいう
課長と並んで他愛もない話をしながら館内をまわる。
「課長はなにが好きですか?」
「んー。チンアナゴ?なんか癒される。」
「あれ、見てて飽きないですよね。」
砂からひょろひょろと出てきてる姿は何度みても印象的で、ついつい見いってしまう。
「……藤本は?」
「私は、定番ですけど、イルカが好きです。」
「藤本らしいな。」
そう言って微笑んだ。
少し歩き疲れた頃、パノラマ大水槽の前のベンチに座った。
2人で目の前を通りすぎていく魚を眺める。
会話はほとんどなかったけれど、課長の纏う空気が柔らかくて心地よかった……
ピンポンパンポン
『もうすぐ、イルカショーが始まります。ぜひ、イルカプールへお越し下さい』
「行くか?」
「はいっ!!」
さっきの放送で動き出した人の波に飲まれそうになる。
「ゆかり。こっち。」
課長がぱっと私の手をとって歩き始めた。
えっ?!
突然のことに驚いたけれど、彼の手が優しくてうれしい。
「ありがとうございます。」
「はぐれるといけないから。」
彼を見ると、いつも以上に感情の読めない目をしてた。
いつもなら、笑ってくれそうなのに……