目は口ほどにものをいう
ディナーの後、ホテルの最上階のバーで2人並んでお酒を飲む。
窓から見える夜景と、ゆったり流れるクラシック。穏やかに流れる時間が2人の回りを包む。
「たまにはこういうのもいいですね。」
「そうだな。」
司さんは普段お酒を飲まない。家でも、外で食べたときも。
ちゃんと聞いたことはないけれど、飲めないわけではなく、きっと私を送るため。司さんはいつも車で送ってくれるから…。
「今日は、お酒飲むんですね。」
「ん?今日は特別だから。」
「司さんと一緒に飲めてうれしいです。」
司さんが優しく微笑んでくれる。
司さんの笑顔を見るだけで、暖かい気持ちになる。あんなに怖いと思ってた司さんに、こんなに心を許す日が来るとは思ってなかった。
司さんの瞳がふと、真剣さを帯びる。
「ゆかり。」
「なんですか?」
「結婚しよう。」
そう言って、差し出されたのはペンダントトップと同じデザインの指輪。中央には大きいダイヤがキラキラと輝いている。
「ゆかりとずっと一緒に生きていきたい。」
うれしくて、言葉がみつからない。視界がどんどん滲んでくる。
'いつかは'
そう思っていたけれど、まだ先だと思ってた…
それに、もともと結婚前提だったから、ちゃんとプロポーズされるなんて思ってなかった。
いとも簡単に私の心をさらっていく。いとも簡単に私の心を満たしていく。ほんとうにずるい。
「ゆかり?」
「司さんはずるいです。」
そういうと、司さんは困ったように笑う。
「返品はしないんだろう?」
少し不安そうに尋ねてくる。
私の答えなんてわかってるくせに……
「返品しません。私もずっと、司さんと一緒にいたいです。」
微笑むと、司さんは安心したように笑った。