私たちは大人になった

優と過ごす時間は永いようでいて儚い。

溢すつもりのなかったため息は、白く空気にとけた。
夜も深くなってきた時分には、肌に触れる空気はまだ冷たい。
扉を閉めて寒さに肩を震わせるけれど、それに負けないように足を踏み出す。
マンションのエントランスを抜けて、優の部屋を見上げるとすぐに閉められたカーテン。

優の行動は分かりやすく、だけど彼の気持ちは分かりにくい。

「すぐ目の前だって。……どこまで心配性なんだか」

そんなに心配なら送ってみせてくれればいいのに、心の中でそう付け足して優の部屋から徒歩数分の我が家の門扉を抜けた。
鍵を開けて中に入ると冷たい空気と、暗闇に包まれた。
迎え入れてくれる人はいない。
この瞬間がとても寂しい。
子供みたいだと思いつつも呟く『ただいま』に呼応する『おかえり』がないのは寂しいものだ。

「……ただいま」

帰ってくる返事がないことなどわかりきっているのに、呟く。
これで返事が帰ってきたらホラーだ、なんて思いながら自室に向かう。
部屋に明かりもともさずに、着てるものも荷物も放り投げてベッドに飛び込みたい衝動をなんとか追いやり、とりあえず下着や着替えを持って早々にお風呂場へと向かった。
何もかもを投げ出してしまえばとても楽になるのだけれど、現実問題、明日も仕事だ。

湯船にお湯を張ることをやめて、シャワーから流れる熱いお湯を身に受けると、体と共に心も落ち着かせる。

いつになったら私は大人ってやつになれるんだろう?
バカみたいだ。
こんなことで、思い悩んでる自分はどこまでも大人になりきれなくて、バカみたいだ。


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