私たちは大人になった
嬉しいときは自然と顔が綻んだし、笑いすぎてお腹が痛くなることもあれば、悲しみには素直に涙が流れた。
大人になるということは、行き場の無い感情を抱えることなのか。
だとすれば私もそれなりには大人になっているのか。
考えたところでどうにもならないことを結局考えてしまう自分に呆れて、その思考を一時中断する頃には母は父の夕食もどうやらカップ麺と決めたらしい。
テーブルには2つのカップ麺が仲良く並んでいた。
「……おやすみ」
「ハイハイ、おやすみ」
声を掛けると、ちょうどお湯が沸いたところで、母は私を見向きもせずに声だけで応え、いそいそとカップ麺の支度をしていた。
母や父は、幸せ、なんだろうか。
「ねぇ、……大人になるってどう言うことだと思う?」
おやすみと投げ掛けた言葉は空を浮いていたけれど、どうにも答えがほしくてその背中に尋ねれば、カップ麺からようやく私に顔を向け、なんだかよく分からないという顔をしながら母は答えてくれた。
「……そういうことをいってる間はまだまだ青いわね」
クスリと笑うとカップ麺にお湯を注いでタイマーをスタートさせて、よいしょ、と椅子に座り直した母はどこか楽しそうに言葉を続ける。