私たちは大人になった

見るや、母は耳敏くそれを聞き取ったらしく、いそいそとカップ麺の支度をしている。
そして、私を見ずにさらに言葉を続けた。

「大丈夫よ。どんなに悩んだって、あんたが迷って悩んで決めた答えに納得できるなら、恋も仕事も私は応援するわ。あんたを信頼できるくらいに、私は子育てできたと思ってるんだから」

じわりと目頭が熱くなるのを自覚しながら、敵わないなと、痛感する。
いつまで経ったって、私は結局この人には敵わない。

「おやすみ」

ぶっきらぼうに呟いて、今度こそ背を向けた。
じきにタイマーが鳴る頃だけれど、それもお構いなしで父のご飯の用意に勤しんでいる母の姿は、紛れもなく夫婦の愛なのかもしれない。
例えそれがカップ麺の支度であったとしても。
仕方がない、今度早くに仕事が終わるときにはご飯の用意をしてあげよう。
娘の愛ってやつを教えるために。

そんなことを思いながら、父に「おかえり」と声を掛けて自室へと向かった。


とるもとりあえず、顔に化粧水を叩き込んで、ベッドに横になった。
体はやはり疲れているようで、ぼんやりと浮き沈みのある意識の中で、優との関係を振り返る。
微睡みの中、記憶は断片的に浮かぶ。
記憶を辿ったところで、結局私は彼が好きなんだと思い知るだけで、なんの手助けにもなりはしない。
ここから抜け出す答えが見つかるなら、そろそろ大人ってやつになれるんだろうか。
誰も答えを見つけてはくれないまま、時間だけが過ぎていく。


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