私たちは大人になった
そんなことを思いながら寝たせいか、夢はひどく現実的で、私の記憶の箱を開けたようなものだった。
ただの幼馴染みだった優とこんな関係になってから、かれこれ5年が経とうとしている。
それに至るもとを振り返ればもっと幼く、当時まだ学生だった私たちはそれなりに大人の階段というのを昇り始めていて、ひとつの別れを経験していた。
異性の幼馴染みが思春期を境に疎遠になるのはよくある話で、いくら近くに住んでいたからといって中学を卒業する頃には学校から一緒に帰ることはなくなっていた。
やがて中学を卒業して、示し合わせたわけでもなく選んだ高校には優の姿があった。
子供同士が疎遠になっても親同士はよく話すというのもまたよくある話で、入学式でばったりと邂逅した私達は親達の話し終わるまでわずかな時間を共にした。
その間に交わした言葉は「久しぶり」が、精一杯だったけど。
お互いの学生生活はそれなりに充実していたと思う。
優は優で、元気にグラウンドを駆け回ってボールを追いかけ回していたし、その傍らにはポニーテールのよく似合う溌剌とした女の子がいつもいた。
私は私で、音楽室の片隅で必死にチューバを演奏していた。
我が吹奏楽部は弱小ながらもチームワークだけはあって、とりわけ同じくチューバを演奏していた男の子と仲が良かった。
彼は“男の子で力がありそう”と言うだけでチューバに任命されていたし、私は“背が高いから力がありそう”と言うだけの理由で第一希望のサックスから外されて、見たこともなかったチューバを演奏するはめになった。