私たちは大人になった

チューバという楽器にはなんら罪もないのに、演奏するはめになったとはひどい言いぐさだけれど、いかんせん我が部におけるチューバという楽器はその大きさ重さゆえに人気が弱く、体力がある(ありそうな)人が演奏するのが習わしらしかった。
半ば貧乏くじを引いたような気持ちになりながらも、やってみれば楽しいもので私達は毎日練習に励んでいた。

そして次第に距離は縮まっていき、2年生最後のコンクールが終わり彼からの告白を受けて人生で初めての“異性とのお付き合い”は始まった。
とは言え、3年生に上がってみれば刻々と迫る最後のコンクールに今までと何にも変わらない日々だけが過ぎていった。
それは全く悪いことではなくて、私にしてみればすごく充実した日々を送っていたけれど、彼にとってはそうではなかったらしい。

『会いたい』
『ふたりきりになりたい』
『今日男としゃべってたろ?』

送られてくるメッセージは現状を否定するものばかりで、ちょうど良い距離感の部活仲間だった彼の違う側面をみたことで、私の心は少しずつ冷静さを取り戻していった。
もともと、人生初めての告白を受けた私はただその“告白された”という事実に舞い上がり、付き合うということの本質を見ていなかった。
私の中を占める彼の割合はごくわずかで、私にとって彼は仲間以外の何者でもないのだとようやくそこで気づいたのだ。
“このままでは良くないな”と、思いながらも目の前に迫るコンクールの為に、それを口に出せずにいて、ようやくそれを伝えられたのはコンクールが終わってからだった。


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