私たちは大人になった
『別れたい』
素直な気持ちを伝えれば、すべて万事うまくいく。
“お付き合い”を解消したらまた友達に戻って、待ち受ける受験という壁を共に砕くような戦友のようになれるかもしれない。
そうじゃなくても、私の“別れたい”という気持ちは受け入れてもらえると思っていた。
単純に、純粋に、本当にそう思って疑いもしなかった私は
、まだまだ子供で、甘かったのだ。
『別れたい』と、告げた私に返ってきた答えは『絶対に別れない』という、ある意味ですごくシンプルなものだった。
別れたくないと言った彼の言葉が愛情だったのか、ただの固執だったのかを私が推し量ることはできないけれど。
それでも別れたいと願う私に、別れないと言う彼の気持ちはもはやどうにも修復ができるはずもなくて、彼の様子が変わったのは別れ話が出て間も無くのことだった。
休み時間の度に教室に来る。
帰宅時に教室に迎えに来る。
いなければ昇降口で待ち伏せ。
休日でさえも家の付近で見かけたことがある。
電話やメールも絶えなくて、仕方がなく着信拒否とメールブロックを設定しても事情も知らない部活仲間が“喧嘩したんだ”と言う、彼の言葉を真に受けて連絡を寄越す。
吹奏楽部は人数が多くて、めちゃくちゃに仲が良くなくても連絡網として連絡先だけは知っている人なんてたくさんいる。
彼は人当たりもよかったし協力する人はたくさんいて、そういう人に廊下ですれ違えば『早く許してあげなよ』なんて声をかけられた。
それに対して私は何も言えずに曖昧に会釈で返すしかなくて、彼の常軌を逸した行動に恐怖すら覚えていた。