花の名前
花の名前
1
これからどうするのか―――
ボンヤリと天井を見つめながら、美幸さんの言葉を反芻する。
カズは、言わなかったんだろうか…美幸さんに。
ココンッと、微かなノックの後で、ドアが開く音がした。
キュ…とスニーカーの靴底が鳴って、気配が近付いてくる。でも、カーテンの側で止まったまま、しばらく動かなかった。
少しの間待ってみたけど、居たたまれなくて、目を閉じると深呼吸した。元々、受け身な性格では無いのだ。
「カズ…」
呼び掛けると、微かに身動ぎした気配がする。
「…怪我…してない?」
「…うん、大丈夫。単車はダメになったけど。」
叔父さんのだと言っていたっけ…そう思うと、何だか申し訳ない気分になる。
「…ゴメンね。」
そう言うと、カーテンが動く音がして、反射的に目を開けた。美幸さんとよく似て綺麗な、でも決して女の子には見えない顔は、少し怒ってるように見える。
「それは、何のゴメン?」
おんなじ事聞かれたな…と思い出して、思わず笑ってしまった。そのまま、再び目を閉じる。
「…助けてくれて、ありがと。」
それには答えずに、カズが椅子に座った気配を感じる。
ちゃんと話し合いなさい―――と美幸さんが言ったっけ。でも、さすがに目を開ける事は出来なかった。
「聞いた…?」
やっと絞り出した声はとても小さくて、でもちゃんと聞こえたようだ。うん、という答えに、目を閉じたまま、こく、と息を飲んだ。
「カズの子じゃ、ないかもしれない。」
でも、カズの子かもしれない、とは言えなかった。
避妊しなかった、とシノに言われて気が付いた。
好き、と。
誰かに告げたのは生まれて初めてで。
思わずのように、目を見開いて見つめるカズに、もの凄く恥ずかしかったけど、頑張って微笑んでみせた、次の瞬間。
噛みつくように唇を塞がれて、その激しさに我を忘れた、―――あの夜。
何度も何度も、キスをして。
明け方近くまで抱き合って。
離れる事が出来ないまま、同じベッドで眠りについた。
順番なのか、どうなのか…産んでみないとわからないなんて…知らず、口角が上がった。
1番いいのは、産まない事だ。
1人で産んで、育てる自信なんてある訳無い。
頭ではちゃんとわかってる。
目を開けると、カズがこっちを見ていた。
さっきのように、怒ってる様子はもう無かったけど、目が合うと、視線を落とした。
「さっきの…」
「…さっき…?」
反芻すると、カズが1つ、息をついた。
「それで、仕事は、どうするの?」
「え?」
「まさか、続けるつもりじゃないよね?…ああ、そうか…」
そう言うと、カズが顔を歪めて笑った。
「アイツと、するんだっけ? 事務所…」
思わず目を見開いた。違うと反論しようとして、辛うじて思い留まる。
言ってどうなるものでもない。
そう思って黙り込んだのをどう思ったのか、カズが苛立たしげに息を吐き出した。
「言っておくけど」
そう言って、酷く冷たい眼差しでこっちを見る。
「俺は、サインしないからね。」
「…え?」
「“アイツ”は、どうするかな?」
ふ、と微笑むと、腕を伸ばして下腹部に触れた。
「言わずに、結婚する? 俺の子かもしれないけど。」
「な…」
「それとも、アイツに同意書(サイン)もらって、堕ろす?」
ボンヤリと天井を見つめながら、美幸さんの言葉を反芻する。
カズは、言わなかったんだろうか…美幸さんに。
ココンッと、微かなノックの後で、ドアが開く音がした。
キュ…とスニーカーの靴底が鳴って、気配が近付いてくる。でも、カーテンの側で止まったまま、しばらく動かなかった。
少しの間待ってみたけど、居たたまれなくて、目を閉じると深呼吸した。元々、受け身な性格では無いのだ。
「カズ…」
呼び掛けると、微かに身動ぎした気配がする。
「…怪我…してない?」
「…うん、大丈夫。単車はダメになったけど。」
叔父さんのだと言っていたっけ…そう思うと、何だか申し訳ない気分になる。
「…ゴメンね。」
そう言うと、カーテンが動く音がして、反射的に目を開けた。美幸さんとよく似て綺麗な、でも決して女の子には見えない顔は、少し怒ってるように見える。
「それは、何のゴメン?」
おんなじ事聞かれたな…と思い出して、思わず笑ってしまった。そのまま、再び目を閉じる。
「…助けてくれて、ありがと。」
それには答えずに、カズが椅子に座った気配を感じる。
ちゃんと話し合いなさい―――と美幸さんが言ったっけ。でも、さすがに目を開ける事は出来なかった。
「聞いた…?」
やっと絞り出した声はとても小さくて、でもちゃんと聞こえたようだ。うん、という答えに、目を閉じたまま、こく、と息を飲んだ。
「カズの子じゃ、ないかもしれない。」
でも、カズの子かもしれない、とは言えなかった。
避妊しなかった、とシノに言われて気が付いた。
好き、と。
誰かに告げたのは生まれて初めてで。
思わずのように、目を見開いて見つめるカズに、もの凄く恥ずかしかったけど、頑張って微笑んでみせた、次の瞬間。
噛みつくように唇を塞がれて、その激しさに我を忘れた、―――あの夜。
何度も何度も、キスをして。
明け方近くまで抱き合って。
離れる事が出来ないまま、同じベッドで眠りについた。
順番なのか、どうなのか…産んでみないとわからないなんて…知らず、口角が上がった。
1番いいのは、産まない事だ。
1人で産んで、育てる自信なんてある訳無い。
頭ではちゃんとわかってる。
目を開けると、カズがこっちを見ていた。
さっきのように、怒ってる様子はもう無かったけど、目が合うと、視線を落とした。
「さっきの…」
「…さっき…?」
反芻すると、カズが1つ、息をついた。
「それで、仕事は、どうするの?」
「え?」
「まさか、続けるつもりじゃないよね?…ああ、そうか…」
そう言うと、カズが顔を歪めて笑った。
「アイツと、するんだっけ? 事務所…」
思わず目を見開いた。違うと反論しようとして、辛うじて思い留まる。
言ってどうなるものでもない。
そう思って黙り込んだのをどう思ったのか、カズが苛立たしげに息を吐き出した。
「言っておくけど」
そう言って、酷く冷たい眼差しでこっちを見る。
「俺は、サインしないからね。」
「…え?」
「“アイツ”は、どうするかな?」
ふ、と微笑むと、腕を伸ばして下腹部に触れた。
「言わずに、結婚する? 俺の子かもしれないけど。」
「な…」
「それとも、アイツに同意書(サイン)もらって、堕ろす?」