颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
§失恋確定の恋とキスと
自分でも馬鹿だと思うけど、春のような暖かい気分だった。全身脱力感に覆われ、柔らかで暖かい真綿に包まれたようなふわふわ感。桐生颯悟の甘いキスは私をくにゃっと骨抜きにする。寝過ぎたときのような力の入らなくてくすぐったい体で、どうにかパジャマに着替え、夢心地のまま眠りについた。

しかし。
朝、目が覚めて私のアタマの中は一転した。どうして桐生颯悟は私にキスしたのか。しかもあんなに長くて、深くて、そして甘いとろけるキスを私にくれたのか。

それと、あの真っ赤な顔。あれはなんの現れだったのか。

謎だ。謎だらけだ。

布団をめくってベッドから降りると腰の痛みは消えていた。着替えとバスタオルを持って部屋を出る。桐生颯悟はキッチンで朝ごはんの用意をしていた。

どんな顔をして挨拶すればいいかわからない。でも避けては通れない。文字通り、浴室はカウンターキッチンの向こうだから。

私に気づいた桐生颯悟は、普通にぶすくれた顔で一瞥する。


「おはよ。腰はどう?」
「大丈夫みたいです」
「シャワー浴びてきなよ。オムレツ作るから」


いつも通りの桐生颯悟にホッとしたような、がっかりしたような複雑な心境だった。あのキスは夢だったとか。

シャワーを浴びてリビングにもどるとフライパンからお皿にオムレツを移しているところだった。桐生颯悟は仕上げにホワイトソースをかけ、カウンターに上げる。サラダとセロリ入りのコンソメスープも添えられた。

私と桐生颯悟はスツールをひとつ空けて座る。昨日は寂しかった距離も今朝は少しありがたかった。あんまり近くにいたら思い出してしまう……。
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