颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
ユウキくんの前から姿を消す必要があった早百合さんは、パティスリー四つ葉を辞め、引っ越しもした。妊娠している早百合さんを雇ってくれる会社はなかったし、連帯保証人のない早百合さんにまともなアパートを紹介する不動産屋もなかった。それでもようやく見つけた古い貸家に住み、内職とわずかな蓄えでなんとか出産までこぎつけた。

出産してからは託児所付きのパチンコ屋さんや病院の清掃業務をこなした。真面目に働く早百合さんに仲間が事務職を紹介してくれ、転職。保育園にも預けることがてきた。それでもお金のかかる子育て。週末はパーティーコンパニオンのバイトもして必死に悠斗くんを育てた。

そして悠斗くんが3歳のときに転機は訪れた。早百合さんがバイトで出向いたパーティーにユウキくんがいたのだ。

スリーピースのスーツを見事に着こなし、生意気にも顎に髭をはやして、談笑するユウキくんを。でも早百合さんはユウキくんに見つからないように背を向けて接客をした。元気なユウキくんを見れただけで充分だった。

ところが。
ユウキくんは現れた。興信所を使って早百合さんの居場所を突き止めたのだ。居場所だけではない。悠斗くんの存在も知られてしまった。


『ずっと探してた。僕と結婚して。3人で暮らそう』


真剣な眼差しに早百合さんの心は揺れた。
でもそのときユウキくんはまだ大学4年生。興信所を利用したお金も、これから暮らす生活費も親からの支援だ。
< 108 / 328 >

この作品をシェア

pagetop