颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
「まあでも。日本の早口言葉でも滑舌はよくなるんじゃない? それとももっと滑舌がよくなることしようか?」
「はい、喜んでーっ。え……?」


ポーン。エレベーターが扉を開けるとエントランスで桐生颯悟は壁ドンした。

ちゅ。ぶちゅーっ。
顎をつままれ、唇から湿ったものが割り込まれて。かき回されて。頭の中がクラクラして。


「ええっと、これは」
「キス。舌の運動になった?」
「なななりませんって!」
「足りないの? じゃあもっとしよっか」
「そうじゃなくて、ほら、颯悟さん、時間に遅れますよーっ!」


桐生颯悟の手をつかみ、エントランスから歩道に飛び出した。ワオ!と誰かが叫ぶ声がした。次の瞬間、私の足下には大量のオレンジがころころと転がる。目の前にはチェック柄のハンチングをかぶった青い瞳の老紳士が紙袋を抱えていた。

どうやら飛びだした私に驚いて紙袋に入っていたオレンジをぶちまけてしまった模様。私と桐生颯悟と老紳士でオレンジを拾いまくる。


『こちらこそ失敬した。ちょっと急いでたものだから』
『いえいえ私こそ』
『すまんが君、このカフェを探してるんだが、ハムハムカフェって読むのかね? 知っとるかな?』
『はい! 私たちもこれから向かうんです。一緒に行きませんか』
『おお。それは助かるわい。っととと、屈んで腰を痛めたらしい』
『私がお荷物持ちますよ。オレンジ重たいですし』
『僕がおんぶしましょうか。すぐそこですから』


……と英語で会話をしながら私と桐生颯悟は見知らぬ外国人とはむはむカフェへ向かった。

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