颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
§オムレツに愛をこめて
まあ、果たして、翌日。

桐生颯悟と私は朝早くにはむはむカフェに出向いた。休日の朝はお客さんの入りが少なく、カウンターの中にお邪魔するには一番いい時間帯だった。

窓の外を見ても早朝のオフィス街を歩くひとはいない。寒々しいコンクリートに囲われた空間はどことなく冷たくて。そんなことを感じるのは自分にやましいことがあるからだ。

桐生颯悟はふられる。間違いなくふられる。

佐藤課長が毎月早百合さんに会いに来て養育費を置いていく。早百合さんは佐藤課長が大好きなナッツミルクティーを作ってあげる。そんなことを10年近く続けているのだ。

あのペアリングが何よりの証拠。これ以上の大人の相思相愛があるだろうか。

そんなことはつゆ知らず、桐生颯悟はにこにこ顔でカウンターに入る。


「早百合さん、オムレツ作りたいんだ。いい? ほら前に言ってたでしょ、オムレツ出したいなって」
「ええ。作ってくれるの?」
「うん。早百合さんに見て食べてもらいたい」


桐生颯悟はにこにこと笑顔で、オムレツを作り始めた。卵を割り、丁寧に解きほぐしていく。そこに牛乳を垂らし、フライパンを熱する。バターを入れ、溶けて細かい泡が消えた瞬間に卵液を一気に流し込んだ。

じゅわ。
菜箸でぐるぐると渦を巻くようにまとめていく。ある程度まとまったところで桐生颯悟はフライパンを持つ手を右手で叩き始めた。フライパンの中の卵は徐々に半月状になった。

その手際の良さに早百合さんも感嘆の声をもらした。
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