颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

くるん、ぽん。
皿に飛び乗るように置かれたオムレツは湯気をあげて黄金色に輝く。

ケチャップを持つと、オムレツの上にハムスターのイラストを描き、余白の部分で、すき、とひらがなを書いた。

それを早百合さんに向けて差し出した。にこにこのかわいい笑顔で。
ああ、いたたまれない……。見ていられない。


「早百合さん、僕の気持ち」
「知ってた。でもごめんね。私、彼のことが忘れられない。この先どうなるかなんてわからない。たとえ振り向いてもらえなくてもあのひとと生きていきたいと思ってる。それは悠斗のためでもなんでもない。私の気持ちだから」


早百合さんははっきりと彼に正面を向いて言った、目を逸らさずにまっすぐに見つめて。恋は残酷だ。私がふられたようで心がキリキリと痛む。

涙目になった桐生颯悟の頭を早百合さんがポンポンと撫でた。まるで幼子をあやすように。


「知ってます。だから早百合さん気にしないで。僕、早百合さんのことが好きだったことに誇りを持ってる。だから僕からもありがとう。早百合さん、幸せになって」


無事、桐生颯悟はふられた。私の目の前で。
ふられたのに、桐生颯悟の顔は明るく輝いていた。すっきりとした爽やかな笑顔で。


*―*―*


マンションへの帰り道。

私はことの経緯を話した。早百合さんからユウキさんの話を聞いたこと、養育費のこと、それを受け取るために毎月ユウキさんがやって来ること、来月悠斗くんをユウキさんに会わせるつもりでいること。
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