颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
しゃがんだ桐生颯悟はさらりと私を抱き上げてリビングに連れて行く。ああ、お姫様だっこだ。景色がクラクラと回るのは憧れのこの体勢に酔ってるから? でも違う。私が思うお姫様だっこは、キミかわいいね今夜は寝かさないよ的な甘い台詞付きのだっこであって。

どすん。ソファに寝かされた。まるで荷物を転がすように。こんなのお姫様だっこじゃない、私は認めない。

そんな間もクラクラと目は回り。


「はい。飲める? スポーツドリンク」
「あり……が……」
「しゃべらないでいいから。飲んで」


ペットボトルのふたを開け、私に差し出す。でも起き上がることもできなくて、目だけでそれを追っていた。飲みたいのに。

せっかく親切で出したペットボトルに手を出さない私にムカついたのか、桐生颯悟は鋭い目で睨んだ。


「飲まないの? じゃあオレが飲むね」
「えっ!」


桐生颯悟はペットボトルに口を付けるとくいと上げて飲み始めた。あー飲みたかった、と恨めしく思っていると、桐生颯悟は私を見つめた。

ソファの座面と背もたれに手を置き、私に覆い被さる。真上にあるのは桐生颯悟の真顔。そして彼は私の顎をつまんだ。


「えっと、あの……☆§●※▽■〇×?!」


それはキスなんていうかわいいものではなくて。

唇の間から注がれた冷たい液体、スポーツドリンクだ。とくとくと流し込まれて口の中が満たされる。渇いた口内に広がり、染み込んでいく。おいしい、気持ちいい。ゴクリと飲み干すと桐生颯悟は再びペットボトルを口にした。
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