颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
軽く落ち込むんですけど。

目の前の顔がどんどん近づいてくる。あれ、ひょっとして……キス?

とりあえず目をつむる。キスしないって言ってたけど解禁したの?

頬にかかる桐生颯悟の息、耳に障る袖の布の音。
ドキドキする胸の音が聞かれてしまいそう。
思わずバスタオルの合わせ目を握りしめる。

しかし。

ずっと待っていても何も触れてこない。パチンとスイッチを押す音が聞こえてまぶたの向こうが明るくなった。そっと目を開けると目の前に桐生颯悟はいなかった。

彼は既に自分の部屋に入るところで、無言のまま、部屋に消えた。

なんなの、今の。



*―*―*

翌朝。
桐生颯悟はいつも通りだった。

キッチンでオムレツを焼き、コーヒーを入れている。


「なにか手伝いましょうか?」
「別にいい。キッチンに入ってこられても困るから。食べ終わったら片付けしてくれればいいよ」


今朝はお皿にチキンライスが盛ってある。昨日私がリクエストしたオムライスだ。持久走対決から1週間、桐生颯悟は私にべったべたに甘いままだ。

祐理恵さんを追い払ったお礼なのか、失恋男の心の痛みが異常行動になって現れているのか。
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