颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
10メートル手前のビルの1階、歩道にはデカデカと黒板看板が置かれていた。はむはむカフェ、ひまわりナッツミルクティはこちらです!、というポップな文字が可愛いハムスターのイラストと共に描かれていた。
「注意力散漫。都会の煌びやかな景色にのぼせてキョロキョロして見逃したとか。キミ、ホントに田舎者だね」
「ぐ……」
だったら歩道の看板を目印に、って初めに言ってくれればいいのに。ケチだ。車だけでなく、心もケチだ。
ふっ、と鼻から息を出し、桐生颯悟は呆れて視線をそらした。「こんな子に声かけて失敗した」と呟くのが聞こえて、私の心の針が振り切れた。
「そ、そんなの、御曹司の癖にロールスロイスで通勤しないからです!」
「は?」
「普通、御曹司って言ったら、お抱え運転手がいて、どうぞお坊ちゃまお嬢さまってドアを開けてくれるんじゃないですか」
「どこまでバカなの? オレのマンション、すぐそこなんだけど?」
桐生颯悟は顎をしゃくり、片側4車線道路の向かいを指した。トラックやタクシーが行き交うアスファルトの向こうにはタワーマンションがそびえ立っていた。
「車は持ってるけど、1キロもない道のりで車なんか出せる? ここの交差点、Uターン禁止だし」