颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

「ちょ……」


桐生颯悟の言葉に私は絶句した。心外だ。
そのために桐生颯悟の恋人のまねをしたんじゃないし、これからもそんなふう桐生颯悟を利用するつもりはない。

桐生颯悟にふられたと思われるなら思われてもいい。そんな傷もアラサーには勲章のひとつだ。

そんなことより、利用するだなんて。

桐生颯悟が私をそんな風に思っていたことがショックだった。


「オレにもそのくらいの人事権はあるから」
「か、帰ってほしいんですか? 仙台に」
「目障りだから」
「目障り……」
「もう、みのりことなんて見たくない」


ひどい。そんな言いかた。
緊張の糸がぷつんと音を立てて切れた。


「わかりましたっ! 仙台に帰ります!! 明日にでも異動願を佐藤課長に提出しますんでっ!」
「そうだね。それがいいよ」
「わ、私も颯悟さんみたいな口の悪い人とはつきあい切れませんのでっ!」


桐生颯悟は立ち上がり、食べ終えた皿を持ってシンクの前に立つ。レバーを引いて湯を出し、食器を洗う。

ジャージャーという水の音。カチャカチャと鳴る皿の音。
洗い終えると桐生颯悟はキッチンから出て自分の部屋に戻ろうとした。
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