颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
最初から叶わない恋だと身にしみてわかっているからこそ、こんな感覚を冷静に味わえた。

両想いだけがすべてではない。桐生颯悟が早百合さんを想っていたように、実らない片想いを必死にこらえて思い続けて、それでもよかったと思える恋。つき合うことができなくても幸せと思える恋。

きっと私にもそんな日がくると信じて。

今夜はどこかホテルを探して明日朝いちばんに荷物を取りに来よう。
1階に到着してエレベーターを降りる。外に行こうとするけどエントランスの自動ドアが開かなかった。

故障? 違う。
鍵がないとロックが解除されないんだった。

鍵……忘れた。

壁のように立ちはだかるガラスのドアをぼんやりと眺めるけど、こんなときに限って住人は入ってこない。

しかたない、桐生颯悟に解除してもらおう。
エレベーター脇にあるインターフォンで桐生颯悟の部屋番号を押す。


「み……みのり、です」
「あ、キミ、バカ? 家出して3分で連絡とか?」
「すいません。ロック解除してください。外に出られなくて」
「ハイハイ。で、解除すればいいの? キミ、財布もスマホもうちに置きっぱなしみたいだけど?」
「あっ!」 


しまった。鞄もスマホも持ってきていない。
自分の間抜けさに情けなくて涙が。


「あの、じゃあ、バッグを……」


ぶつっ。
インターフォンのマイクが切れた。
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