颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

「キミ、相当おめでたいよね。手ぶらで家出とか。オレが来なかったらどうするつもりだったの? 野宿とか? まあ、キミが裸で寝てても誰も襲わないだろうけどね」


ええっ? ひどい。
なんか輪をかけて毒舌度が増してる。

でも私はほっとした。だっていつもの桐生颯悟にもどっていたから。怒ってるけど、さっきのとは違う気がしたから。


「そんなこと颯悟さん、知ってるじゃないですか」
「そうだね。バカなのも、うそがつけないのも。色気がないのも、キスが下手なのも。推察力もゼロ、デリカシーもゼロ、料理も下手。ほんと、最悪」


ポーン。エレベーターは42階に着いた。桐生颯悟はそのまま私を引きずるようにして部屋へ連れ込んだ。

バタン。背後で玄関が閉まる。


「いちばん最悪なのは鈍いこと」
「鈍い? なんのことですか?」
「ほら、鈍い。バカ」
「そんなこと言われなくてもわかってます」
「わかってない。全然、わかってない」


桐生颯悟はため息をつき、私から目をそらした。狭い玄関、桐生颯悟の息遣いと自分の心臓の音がこだまする。
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