颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
とか?

「☆§●※▽■〇×?!」


と想像して頬を押さえていると、運転席から舌打ちが聞こえた。桐生颯悟があきれ顔で私を見ていた。


「キモ。なに妄想してんの?」
「どんなとこかなあって。颯悟さん、行ったことあるんですか?」
「ううん。オレも初めて」
「ナビ、つけましょうか?」
「いらない。ほら、見えてきたよ」
「あ……海? 海ですか?」


前方の開けた景色には水平線。夕暮れには早いけれど、太陽が海に反射して海面はわずかに黄みを帯びていて。そういえば海を見るのも久しぶりだ。


「どう?」
「き、きれいです! 仙台の海もいいですけど、日が落ちる方向ではないので……うわぁ……」
「支社長も同じこと言ってたよ。太平洋岸だと日の出は見えるけど日の入りは見られないってね」
「これから夕日が沈むんですね! ロマンチックです!」
「コテージからも見えるらしいから部屋で見ようね、みのり」
「コテージ……」


想像してなかった。旅館かホテルを予想してたけど、しかも海の見えるコテージだなんて。

どことなく寂しい夕陽を肩を寄せ合って眺めて。暮れたあと、見上げれば満天の星。聞こえるのはさざ波と木々を揺らすそよ風の音。ビンテージもののワインで、いや、支店長ならブランデーかウォッカのほうがしっくりくるかも。

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