颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
「キミも食べるでしょ。こっちにきて座りなよ」


桐生颯悟が隣のスツールを引くので回り込んでそこに座った。ソースをかけて黙々と食べる。カツカツとスプーンとお皿の当たる音が室内に響く。自分で言うのもなんだけど、味は悪くない。失敗した衣がサクサクして食感もいいし。

なんだか申し訳ない。いたたまれない。無言で食べてるから、桐生颯悟がどう感じているかわからないし。

でも結局、全部食べてくれた。最後のキャベツの一本まで。


「味は悪くないよ、見た目のわりに。ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
「ホント、お粗末。帰るでしょ、送ってく」
「いえいえ大丈夫です。まだ電車もありますし」
「その格好で電車に乗るの?」
「ええ、まあ。カバンで隠せばそれなりに。乗り換えたあとは人もまばらですし」


慣れないコロッケ作りの戦闘痕がブラウスについている。溶き卵や小麦粉、跳ねた油。エプロンなんて持ってきてなかったからしょうがない。洗っても落ちないだろうな、シミになったらニットのインにして着回そう。


「まばらって、どこまで帰るの。何線?」
「えっとまず、○○線に乗り換えて、▲▲駅で◎◎線に……」


桐生颯悟は大きな手で口元を押さえた。


「それって何時間?」
「2時間はかからないかなー、と」
「どうしてそんなところ借りたの? それとも親戚の家に居候とか? 実家とか?」
「普通にマンションですけど」

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