颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
ゲートの向こうで手を振る……いや、振られているのは大きな扇子。
白い羽を束ねたそれはジュリセンと呼ばれたバブルの象徴。

そのジュリセンを優雅に緩やかに躍らせるのは、ジャラジャラしたピアスをぶら下げた金髪の女性。

大きく胸のあいたマイクロミニのワンピースは目の覚めるコバルトブルー。裾から細く長い足が伸び、靴はもちろん黒のピンヒール。

ああ……このひと……見覚えがある、というよりか。


「あ、みのり~っ! 迎えに来たよ~っ!」


私は頭を抱えたくなった……紛れもなく母だ。

母は娘の会社だというのに、なんの気遣いもなく大声を張り上げる。童心に帰ったような満面の笑みで。

隣にいる桐生颯悟をみやると、目をまん丸にして口を薄く開けていた。


「ひょっとして、みのりの?」
「え、あ、はい……母で、す……」
「ふうん? ほら、呼んでるよ?」
「いや、でも、その恥ずか……ぎゃあ!」


どん、と桐生颯悟に背中を押された。つんのめりながらゲートに向かう。致し方なく母の前に行くと母は扇子でばふばふと私の顔を扇いだ。

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