颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
えっとつまり、私に苦労をさせたくない、と。それでお見合いを推奨したということ?

それって、それって、桐生颯悟は私とのケッコンを真面目に考えていた、ということで。

自分の頬がかあっと熱くなるのが分かった。


「そそそ、颯悟さん、い、いつからそんなことを考えていたんですか」
「キミが風邪を引いて郵便物取りに行ったでしょ。あのとき封筒が破けて中身が地面に落ちたんだ。そしたら……見るつもりはなかったんだけど、お見合い写真だったから……」


ああ、そういえば、桐生颯悟は郵便物の入ったトートバッグを抱えながら考えごとをしていた。

あれは私との未来を切実に想像していたから……?


「その前からみのりとの将来は漠然としたものはあったよ。ずっと一緒にいたいし、ウェディングドレスも作ってあげたいって。でも写真を見て、急に具体的に自分の立ち位置を突きつけられた。お見合い相手の方がみのりもみのりのご家族も幸せなんじゃないかって。オレと結婚したら仙台には帰れないよ? ご両親だってみのりが帰ってくるのを待ってるんじゃないの?」


追加したグラスビールが届いたけど、桐生颯悟はじっとその泡を見つめている。
悩める子羊的な桐生颯悟を見るのは初めてだ。

私の心は嬉しいというより、こう、すごーく重たくて。
社長夫人の自分なんて想像つかないわけで。

桐生颯悟とのケッコンを妄想して自分が煙のように消えてしまうのは、そういう現実認識が欠落していたからだ、と納得もして。
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