颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
「うちの娘で~すっ!」
皆の注目を浴びる。
ヒューヒューという口笛、甲高い拍手。うわぁと感嘆の声も上がった。
「ム、ムリっ!」
「いいから踊んなさいよ」
「踊り方なんて知らないしっ」
「腰に手を当てて右に左に振ってりゃいいさ。ほら、こう!」
母が後ろから私の腰に手を回し、横並びでおしくらまんじゅうをするように揺れた。バランスを崩しそうになり、手を前に出す。
「いいよいいよみのり。そのまんま万歳して、手を揺らして」
ええい、もう、こうなったら。
右左右左。左右左右。
腰と手を反対方向に動かしてバランスを取る。
ああ、なんだろう。
すごく不思議。
音楽が、音が、ミラーボールに反射する光が、すべてが一体化する。
隣で躍る母も、私も。
ステージのすぐ下で躍るひとたちも、カウンターでシェイカーを振る黒服のバーテンたちも。
すべてが混ざり合ってひとつになる感覚。
ガラスの向こうのVIPラウンジでは桐生颯悟が私を見ていた。
自分のことより私のことを心配してくれた彼。
上っ面のケッコンしか考えていていなかった自分。
みっともなくて恥ずかしいのと、想われてて恥ずかしいのと、同じ恥ずかしいなのに全然違う。
もうちょっと将来を考えよう。
大切な未来を大切に過ごすために。
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