颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
お見合いの直後で、会いたいような、会いたくないような。
“断ってきたよね? みのり?”とかドヤ顔で笑う桐生颯悟を想像して、なんとなくムカついたりして。

そんなことを考えながらも、結局彼のマンションに着いてしまった。



*―*―*


「た……ただいま、颯悟さん」


リビングでは桐生颯悟がソファで文庫本を読んでいた。予定では月曜日まで母と自宅マンションで過ごすはずだった私を見て、桐生颯悟の目がまんまるになった。


「どうしたの? お母さんは?」
「父が恋しくなったから仙台に帰るって。ひとりになっちゃったから、なんとなく、こっちに。あっちのマンションだと2時間かかるし、面倒になって、その……」


桐生颯悟は文庫本をそっと閉じてローテーブルに置くと、やれやれ、といった表情で立ち上がった。風呂上がりの読書タイムだったらしい。

白いTシャツ、濃紺のハーフパンツ。少し湿った髪、フレームなしの眼鏡。ポケットに手を突っ込みながら私の前にやってくる。

まんまるだった目はいつの間にか細長く横に伸びて、いつものドヤ顔になった。


「素直にオレに会いたかったって言えば?」
「べべべ、別に会いたかったわけでは」
「そう。ただ近いから来ただけなんだ。うち、いつからタダで泊まれるホテルになったの? へえ。じゃあ、いいんだ?」
「ななななにをですか? なにを?」
「キス。キス、したくないの?」

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