颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
§焦れったいほどの優しさで
当てられた唇はほんのり冷たい。そしてすぐさま生暖かく湿ったものが私の唇を割った。
突然のことで驚いて歯を食いしばり、歯列を割り入ろうとした桐生颯悟のそれを拒むような形になってしまった。
だって、いつだって彼はついばむキスを重ね、むにゅうっと唇を押し当てるキスをし、しばらくしてから舌を出し、ゆるゆると唇をくすぐるように撫でててくる。それから私の意思を確かめるようにそっと唇を割り、上唇の裏をさすり、下唇の裏をさすり、そして歯列をなぞって私の舌を絡ませる。キス魔の桐生颯悟はいろんな形のキスを楽しみたくて、いろんな私の唇を確かめたくて、そうしていると思っていた。
なのに、今は、こんなに性急だ。
すごく戸惑う。
酔っているのかとも思ったけどそうではなさそうだし、酔っているときほど焦れったいほどのゆっくりとしたキスになるのも知っている。
後頭部をつかんでいた桐生颯悟の指先に力が入り、くいと少し上を向かされた。それと同時に顎が動いて歯に隙間ができる。その隙を逃さぬように桐生颯悟の舌が中に割り入ってきた。
絡め取られる舌。唇は冷たいのに舌はものすごく熱い。こんな熱いキスになるころには私も自分の体を支えていられなくなって桐生颯悟の首に腕を回すけれど、まだそこまでじゃない。
待って、待って……。
顔の向きを変えるのに、桐生颯悟の唇が一度離れた。
「そ……そご……」
「しゃべらないで。キスできないでしょ」
「だって、どうして」