颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
§気持ちのない同棲のはずですが?
朝5時半にやってきたレクサスに乗り込み、都心を目指す。早朝だからか首都高はスイスイだった。マンションの地下駐車場に停めると荷物を3階のコンシェルジュカウンターに預ける。42階まで行くのが面倒くさいようだ。朝は特にエレベーターが混雑するらしいから。ちなみに荷物は桐生颯悟が運んでくれた。
始業までまだ時間はある。
「キミ、朝ごはんは?」
「まだです。コンビニで買ってオフィスで食べようかと」
「じゃあ寄ってく? カフェ。昨日の」
「はむはむカフェですか? こんな朝からやってるんですか?」
「たぶん。イヤならコンビニで買えば?」
「いえ。ご一緒します」
昨日の今日でまた行くなんて、よほどのファンだ。はむはむホリックだ。
7時のオフィス街は静かだ。いつもは人で埋め尽くされる歩道もガラガラ。誰もいないプールに飛び込んで独り占めで泳いだときに似ている。どんなに手を広げてもぶつかるものはなにもない。
はむはむカフェに到着すると桐生颯悟は窓ガラスをコンコンと叩いた。薄暗い店の奥から編み込みの女性が現れた。私たちをみるとにっこりと微笑んで入口のドアを開けた。
「早百合さんおはよう。開店前だけど、いい?」
「もちろん。どうぞ。モーニングでいいの? っていうか、あり合わせだけど」
「うん。早百合さんに任せるよ」
女性……早百合さんはカウンターの中へと潜り込む。桐生颯悟はとびっきりの笑みで、早百合さんにありがとうと言い、昨日と同じ窓側の席に着いた。