颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
「キミ、なに笑ってるの。思い出し笑い? 気持ち悪いんだけど」
「これも私のデフォですので耐えてください」


私の背後からカツカツという足音が聞こえたのと、ぶすくれていた桐生颯悟がにっこりと笑みを浮かべたのはほぼ同時だった。早百合さんがプレートを運んできた。コンソメスープと焼いたベーコン、こんがり焼けたトーストの匂いにお腹が音を立てそうになる。


「桐生さん、楽しそうね。ひょっとして彼女?」
「違う違う、会社の子。仙台から越してきたばかりで心細いって言うから案内してるんだ」
「そう。桐生さんって優しいものね」
「早百合さん、ひょっとして妬いた?」
「ふふふ。どうかしらね?」


ふたりは笑みを浮かべながら穏やかに会話をする。春の日溜まりのような暖かい色がふたりを包む。

え、なに。この雰囲気。
ひょっとして、ひょっとして。


「さめちゃうから食べようか、みのり?」
「はい。颯悟さん」


ごゆっくりどうぞ、とカウンターに戻る早百合さんの背中を桐生颯悟は眺めている。ほんのりと頬を染めて、まばたきもせずにじっと見つめている。
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