颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

暖色系の明かりの、ほんわかした空気にほっとする。お客さんはおらず、アルバイトとおぼしき学生っぽい男の子がカウンターで洗い物をしていた。カタカタという食器の音も耳に心地いい。

カウンターに腰かけた私にアイスコーヒーを出すと、早百合さんはゆったりとした動作でブラインドを下ろした。チェーンを見上げるその姿はしなやかな弓のようで、うなじの後れ毛も色っぽい。

これが年下男を魅了する魔の色気。

悠斗あがって、と早百合さんが優しく声をかけると、男子学生はそそくさと裏方へ引っ込んだ。まさかの呼び捨てに、つい、私は目を光らせた。ひょっとしてふたりは恋人だったり? 早百合さんの色香に引き寄せられた男がここにも。

アラフォーの魅力、あなどれん。


「朝早いのに遅くまで大変ですね」
「好きなことを仕事にしてるから苦ではないわ」
「颯悟さん、よく来るんですか?」
「ええ毎日。来るときは日に2回」


ぶっ。アイスコーヒーを吹きそうになる。どんだけ?


「プライベートな質問でアレなんですけど、ご結婚されてるんですか? こんな遅くまで働いてるなんて、よくご主人が許してくれるなあって」


カウンター内に入った早百合さんが首を横に振った。自分用にグラスにアイスコーヒーを注ぐと、細い指でストローを差した。その左の薬指にはシンプルなリング。
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