颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
なんだ、桐生颯悟も同じようなことをしてたんじゃないか。
「ちなみに早百合さんの元カレと言いますか、悠斗くんの父親とどうして別れちゃったんですか? 大学卒業まで待って籍を入れるとかもアリだったかと」
「そうね。彼、御曹司だったの」
「どうやって知り合ったんですか?」
「私、焼き菓子がメインのパティスリーに勤めていてね。はい、おまたせ。ひまわりナッツミルクティ」
裸電球の暖かい光がミルクティをほんわかと照らす。もちろん味も暖かい。これ、今朝、佐藤課長にもらった濃厚ミルクティに近い味がする。
「ホテルに配達に行ったの。有名企業の創立記念パーティーの引き出物の注文でね。会場がリニューアルしたばかりのホテルで、絨毯がふかふか。台車の車輪が毛を巻き込んでつんのめって荷物を崩してしまったの。それを一緒に拾ってくれたのがユウキくん。スリーピースのスーツを着てたから高校生には見えなかったわ」
早百合さんは薬指に鈍く光るリングを優しい目で眺める。それだけで素敵な恋だったんだなと私は感じた。
「まあ、それでちょっと話をして。パーティーは退屈なんだ、って言うから、私には羨ましいって答えて。そしたら、いっしょに出てみない?って誘われたの」
早百合さんはもちろんためらった。着ている服はパティスリーのユニフォーム、後ろに束ねただけの髪。とてもパーティーに紛れ込める見た目ではなかった。ところがその男の子は、ホテル内のブティックや美容室に早百合さんを連れて行くと、あれよあれよと言う間に早百合さんをお姫様に仕立ててしまった。