颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

結論から言うと、彼はそのホテルグループの御曹司だった。パーティー会場内で彼はスマートに早百合さんをエスコートし、踊ったことのない早百合さんをリードし、ダンスもした。楽しい時間はあっという間に過ぎた。

名残惜しくて、ふたりは翌週に会う約束をした。火曜日、午後4時。待ち合わせ場所は市立図書館。そこに現れたのは制服姿のユウキくんだった。


『幻滅した? 僕が高校生で』
『ううん。びっくりしたけど幻滅なんてしてない。ユウキくんこそ……』
『早百合さんは素敵だし、かわいい。それだけじゃダメ?』


習い事や塾、パーティーや会合に出席など忙しいユウキくんと、仕事をしている早百合さんの都合がつくのは火曜日の夕方だけ。これがふたりの逢瀬のときとなった。

学校帰りのわずかな時間。規律の厳しい有名私立の制服を着た高校生と行ける場所は決まっていた。図書館、美術館、カフェ、公園。それでもふたりは楽しんだ。夕暮れの公園で人目を忍んで手をつなぎ、キスをする。それだけで充分だった。

だって、早百合さんはユウキくんとの身分差に、年齢も早百合さんが24歳でユウキくんは17歳という年齢差に、結ばれないことは承知していたから。これ以上、関係を深めてはいけない。自分が辛くなるだけだ、別れるときに。そう言い聞かせて。

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