颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

「でもね、夏休みになったら彼は私服で現れたのね。制服では行けなかったカラオケボックスやゲームセンター、プールバーにも出かけたりして。そんなところに出入りしているうちに、なんというか、ふたりの間柄も大人に近づいてしまったというか。一番いけなかったのは漫喫かな」
「個室だとアレですね、確かに」
「そのときはブレーキも効いたんだけど。夏休みも終わろうとしてるとき、たまたまラブホテル街に迷い込んでしまって」


まずいと感じた早百合さんはユウキくんの手を握り、Uターンしようとした。でもユウキくんはぎゅっと小百合さんの手を握り返し、ホテルの前から動こうとしなかった。

ユウキくんの強いまなざし、手に感じる強い力。
アスファルトからせり上がる蒸した空気に、ユウキくんの背後の景色が蜃気楼のように揺れた。現実の世界から離脱してしまったように視界がぐらつく。


『早百合さん、入ろ?』
『ダメだよ』
『イヤなの? 僕のこと。僕とそういうことしたくないの?』
『イヤなんじゃない。むしろ……したい。欲しい、ユウキくんのすべてが欲しい。でも、でもね……ちょ、ユウキくんっ!』


ユウキくんは強引に早百合さんをラブホテルの中へと引きずり込んだ。景色は暗転した。太陽が照りつけていた歩道から数個のダウンライトだけが灯る空間へ。

黒い壁に囲まれた暗室で中央には部屋の内装を掲示したパネルが煌々と光っていた。
< 65 / 328 >

この作品をシェア

pagetop