颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
§キスの代償

*―*―*

そうこうして対決当日。

祐理恵さんが持ち込んだクーラーボックスの中には最高級のたらば蟹、北海道産の生クリーム、卵などの材料が入っていた。彼女の家のお抱えシェフが吟味に吟味を重ね、市場で仕入れてきたものらしい。もう、素材から負けている。

さらにズルいことには。
祐理恵さんは年配の女性を連れてやってきた。背の低い、白髪混じりの、白い割烹着をかぶったひと。祐理恵さんは彼女をばあやと呼んだ。


「そうそう、お嬢様。火加減を少し強めて。はい、そのくらいで。さすがお嬢様ですね、お上手です。そろそろ火を止めてバットに……」


と、ばあやさんが逐一指導をする。

ズルいです!、と私が抗議をすると、


「お嫁にいくときはばあやも一緒だから。ねぇばあや?」


と返答。そして、なんか文句あるのっ?!、と私を睨む。

にっこりと微笑んだばあやさんの目尻のシワは一層深くなる。聞けば祐理恵さんが生まれた頃から猪瀬家に奉仕していて、子どものいないばあやさんに取っては祐理恵さんが娘のようなものらしく。

そんなふたりを桐生颯悟はにこにこと見つめる。
最高級の素材にお料理上手のばあやさん。勝てる気がしない。
< 68 / 328 >

この作品をシェア

pagetop