颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

今回はちゃんと形になった。小判型の黄金色の物体は誰がどう見てもコロッケだ。対して俵型のコロッケは祐理恵さんのカニクリームコロッケ。キャベツの千切りとミニトマト、茹でたブロッコリーもいい感じに添えられた。

初めにカニクリームコロッケを、次にポテトコロッケを食べた桐生颯悟はにっこりと笑った。固唾をのんで見守る私と祐理恵さんとばあやさん。


「うん。どっちもおいしいね。でも僕はこっちのポテトコロッケが好きだな。祐理恵さん、ごめんね。やっぱり僕はみのりと結婚する。みのりの料理が食べたいんだ」



*―*―*

対決に負けた祐理恵さんは尻尾を巻いて退散……するはずはなく。

テーブルに残ったコロッケを雪合戦よろしく私めがけて投げつけて。よけきれずにポテトとクリームだらけになった私に、今度は英会話対決よ!、と言い捨てて部屋を出ていった。

私と桐生颯悟は散らばったコロッケのかけらを拾い集め、床にこびりついたクリームを雑巾できれいにふき取った。それでも部屋の中は油と蟹とバターの匂いで充満している。

片付けを終え、ふう、とふたりで息を吐き、床にへたり込んだ。体育座りの桐生颯悟は額に浮いた汗を手の甲でそれを拭う。そこに色気を感じてしまったのは、それは早百合さんの話と重ねてしまったから。こめかみに汗を浮かべながら必死に早百合さんを抱いたユウキさんの顔と。
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