颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
正面に来て、顔を近づけて私を見つめる。まんまるにした目で、驚いてる。


「何、それって欲求不満ってこと?」
「まあ、そういうことかもしれません」
「それともオレのこと好きになったとか?」
「まままままさか。だって毒舌だし意地悪だし、身分だって天国と奈落の底ぐらい違いますし、颯悟さんは他の女性しか見てないですし。私が颯悟さんを好きなんてありえませんって!」
「あっそ」
「好きじゃないですからっ、年下だし!」


桐生颯悟はそっと私の肩を押し倒し、床に寝せた。そして私の上で四つん這いになり、鋭い視線で私の顔を見下ろす。肘を折った桐生颯悟の顔はあと数センチというところまで近づいた。

さっきまでのリスのような愛らしい目ではなく、いつもの呆れ顔の鋭い目にもどっていた。


「いいよ、お礼のキス。目、つむりなよ」


低い声でそうつぶやくように言うと、桐生颯悟はゆっくりと顔を下ろしてくる。その動きに合わせて私もまぶたを閉じた。

唇にふんわりと温かいものが触れた。触れては離れ、離れては触れる。小鳥のような爽やかなキスを繰り返したあと、唇をむにーっと押しつけられた。接着面積が広くなって、柔らかく唇を挟まれた。やさしくてあったかくて、気持ちがいい。体全体が毛布に包まれているような錯覚に陥る。ふにゃあと体の力が抜けた。
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