颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
私の膝の上に座ったまま、ふん、と鼻を鳴らす。手を差し出されて、私は上体を起こした。その手はすごくあったかくて、力強くて、ずっとつないだままでいたくて。私は目の前の桐生颯悟の胸に頭をもたれかけた。このまま抱きしめてくれないかな、なんて甘い期待をして。

でも桐生颯悟はキスの余韻もなく、私の手を振り払い、立ち上がるとそっぽを向いた。すらりとしたその背中は凛としてカッコいいのに、どこか冷たい。


「声ぐらい、もっと色っぽく出せるようになりなよ。一生、恋人できないよキミ」
「返す言葉もございません」
「まあ、キミに恋人ができなくてもオレは困らないけどね。とりあえず着替えて。荷物取りに行こうよ。車、出すから。あいにくキミの好きな外車じゃないけど?」


私の方を一度も見ずに自分の部屋へと入っていく桐生颯悟。


あれ? みのりからキミにもどってる。




*―*―*


荷物を取りに行く間も桐生颯悟は機嫌が悪く。


「1時間で荷物まとめてって言ったじゃん。今何時だと思ってんの? 時間も守れないなんて」
「リムジンでもロールスロイスでもポロでもないけど乗れば?」
「身分差? 御曹司で悪かったね。オレも好きで御曹司に生まれてきたわけじゃないけど。ま、キミも好きで女子力低く生まれてきたわけじゃないしね」


などと、のたまい。
最後に必ず、


「ま、別にいいけど。オレ、キミとは関係ないし」


と捨て台詞を吐く。関係ないならほっといてくれればいいのに、何か言わないと気がすまないようだ。
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