颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
「じゃあ、なに?」
「昨夜、着替えさせてくれたのって」
「オレだけど? 着替えさせてって頼んだのはキミだよ。でも安心して、キミに欲情したりしないから。胸も貧相だし色気もない下着だし。なに、白地に水色ドットって。ジュニア用?」
「ジュニア用じゃな……そうじゃなくて、でも、その……キスしましたよね? キス」
手首をトントンと叩き、フライパンを揺する桐生颯悟は、そんなことまで、と呟くように言った。私とは目を合わせずに。
「覚えてるの? 酔って寝ぼけたふりしてオレに着替えさせたの?」
「そんなわけないじゃないですか! な、なな、なんで颯悟さんに着替えさせてもらわなくちゃならないの」
「誘いたかったんでしょ? キミ、欲求不満みたいだし。誰でもいいんじゃないの? 解消してくれるひとなら」
「そんなこと……」
「言っとくけど、キスじゃなくて指だから。唇にバターライスのごはん粒がついてたから取っただけ。なに勘違いしてるの? はやくシャワー浴びてきなよ。オムレツ冷めるから」
桐生颯悟はフライパンから目を離さない。それはオムレツの火の通り具合を見極めたいからじゃない。だってその証拠に彼の白い頬はほんのり赤く染まって、瞳が揺らいでいる。泳ぐんじゃなくて、潤んでるような、それでいてわずかに目を細めている。
あれは指じゃない。キスだ。あの柔らかい感触は絶対に桐生颯悟の唇。