颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
なぜ、私にキスを?
シャワーを浴びてシャツを着て、リビングにもどる。すでに桐生颯悟の姿はなかった。出勤したのか、早百合さんのところに寄ったのか。カウンターには光り輝く黄金のオムレツだけが残されていた。
今朝のオムレツには昨日の残りのビーフシチューが掛けられていた。
ケチャップでイラストの練習はしなかったのかな。
桐生颯悟がよくわからなくなってきた。
*―*―*
出社すると例によって佐藤課長がいた。くわえ煙草で長い髪をかきあげ、モニターとにらめっこしている。窓側に近い彼の席はオフィスの入口から見ると逆光で、なおのこと陰のある男に見えてしまう。彫りの深い顔立ちのせいか。
「課長、おはようございます」
「おう。お前はいつも早いな。感心、感心。今日からデザイン回りをよろしく頼むわ。例によってお前のタスクはデスクの上」
このひとゆるーい雰囲気をまとうくせに、仕事は速い。先回りして済ませてしまうのだから。
「麦倉は商学部出てなんでデザイン関係やってんの?」
「もともとは美術関係の仕事につきたかったんですけど、親に反対されまして。美大出ても食えないから学費は出さないって言われて。こっそり専門学校的なところは大学時代に行ってましたけど」
「なるほどね。で、同棲生活はどうなの? あのお坊ちゃまをどうやってたぶらかしたわけ?」
ぶっ。吹き出してしまう。