颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)

歓迎会は近場の居酒屋で開かれた。デザイン課行きつけの店で、焼き鳥がメインの、どちらかといえば男臭い店だった。炭火の煙に煙草と汗の匂いが混じる店内を進み、奥にある急な階段を登る。2階にある座敷だったのは幸いだった。


「麦倉みのり、本社へようこそ。乾杯!」


カンパーイ!、と男女8人の声が揃う。

会は和やかに進んだ。生ビールがおいしい。ぷはー。こんな姿を見たら桐生颯悟は女の子がはしたないとか言うんだろうな。所詮、育ちが違う。

佐藤課長が言ってた精神的にクるというのはこういうことだ。庶民中の庶民の私は御曹司の感覚についていけないんだと思う。
飲も。今夜は飲もう。立て続けにジョッキを空けたら気持ちが軽くなった。

飲み過ぎたのかトイレが近い。化粧室に行くと数人が順番待ちをしていた。1階にもトイレはあると聞き、そっちに回ることにした。手すりに捕まり一段ずつ降りる。かなり急だ。登ってきたときより傾いてる気がする。

ずるり。かかとが階段の角をすりぬける。


「あっ……ぎゃああっ☆§●※▽■〇×?!」


ドタドタドタ。
踏み外して、3段ほどお尻で滑り落ちた。いたたたた。
私の悲鳴とドタバタ音に気づいた店の人やお客さんがわらわらと私の周りに集まった。大丈夫ですか?と声をかけられ、恥ずかしさに顔が熱くなる。大丈夫だと答えると、皆が散れていく。
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