『 』
あるとき
彼が本を読むのではなく
ルーズリーフに何かを細かく書いているのが見えた。
「何、かいてるの?」
「う~ん、プロット?
そこまでいってないかも」
「小説?」
「うん、趣味みたいなものだよ」
本の話をするときよりも、楽しそうな明るい表情になった。
だから、思わず、聞いてしまった。
「どんな小説書くの?」
「読んでみてくれるの?」
「うん」
それから、彼が書いている小説サイトとペンネームを教えてもらって、調べて読むことにした。
彼の作品は、
とりあえず、凄かった!
小説なのに、文字だけの世界のはずなのに
いつの間にか、
今にも、音や香りがしてきそうなほどの繊細な表現力
仕草や人の心の動きまでもあらわした美しい描写
美しくも儚い物語
でも、どの作品にも一貫しているものは
『大切な人に想いを伝えること』
感謝 謝罪 愛や嫉妬の言葉
どんな言葉にも、その人を想っていない限り出てこない言葉がつづられていた。
彼の投稿しているサイトのコメント欄には
涙した 共感した 伝える勇気をもらったなどの言葉で埋め尽くされていた。
その感想をみて、彼は凄いと思った。
儚い物語を読んで、気持ちは悲しさと感動で一杯なはずなのに、
心はポカポカと暖かい
なんだか、矛盾している。
彼の事を思うと最近、そんな気持ちになる
とても、不思議な気持ちに――。