不思議探偵アリス ~切り裂きジャックと赤の女王 ~
振り返ると不機嫌そうな顔をしてこちらを見ているレオンの姿があった。
時計を見ると私がトイレに行くと言ってからかなりの時間が経っていた。
そうか、レオンは心配して私のことを......
「レオン......」
「トイレに行ったっきり帰ってこねえから心配してきてみれば、ナンパかよ」
とレオンは呆れたように言った。
「ち、違うよ!」
私が慌てて言うと
「どうだか」
とレオンは疑いの目をこちらに向けた。
「ちがうってば!」
なんでこんなことしか言えないのよ
言い合っていたらきりがない。
「仲がいいんですね」
へ?
見ると男の人が私たちを見て笑っていた。
「仲良くなんてないです!」
レオンと声が揃う。
「そうかな〜?」
と男の人は少し意地悪そうに言った。
「もう.......」
なんだか何も言い返せない。
すると彼はポケットから懐中時計を取り出し
「大変だ!もうお店に戻らないと!」
と慌てて言った。
「行かないと!」
そう言うと彼はその場から立ち去ろうとした。
まだお礼も行ってないのに!
まって!
そう言おうとした時だった。
彼はいきなりこちらに振り向き
「あなたの名前聞いてませんでした」
と私を見た。
えっ......
突然聞かれたので少し驚いてしまった。
「アリス、です」
「可愛い名前だ」
と彼は微笑んだ。
また顔が熱くなる。
「それじゃ......」
私も......私もこの人を名前を知りたい!
「あ、あなたの名前は......?」
いつの間にか私は大きな声でたずねていた。
また大きな声を出してしまった。
彼は一瞬驚いたような顔をしたが
「僕の名前......そうだなぁ......帽子屋」
と言って微笑んだ。
「え?」
名前を聞いたはずなんだけど.......
「僕は帽子屋をやってるんです。だから帽子屋」
そう言って彼は少し楽しそうな顔をした。
すると帽子屋さんは
「今度、お店にも来て下さいね。それではまた」
そう言ってお辞儀をするとたくさんの帽子を抱えて人混みの中に消えていった。
「また......」
そう言って彼の背中を見送った。
また、か。
なんだか不思議な人だったな......
また会えたらいいな、ここで私に残された時間の中で......
「トイレはいいのか」
と突然レオンが不機嫌そうに言った。
「あ!」
トイレのことなんてすっかり忘れていた。
そういえばまだだった!
うっ......急がなきゃ!
「行ってくる!」
そうレオンに言うと私は走ってトイレへ向かった。
「はあ」
そんなアリスの姿を見てレオンはため息をつくとさっき帽子屋が方向を睨んだ。
「帽子屋......お前は一体......」
とレオンは誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。