ガラスの境界、丘の向こう
 教室に響く数学の先生の単調な声はまだ続いていた。
 このままでは本当に寝てしまいそう。

 眞奈はつい窓と外の景色に目をやる――、それとも、マーカスのことが気になるから何度も窓の方を見てしまっているのだろうか。
 彼女自身にもよくわからなかったけれど、やっぱり何回も窓の方を見やった。

 マーカスはあいかわらず外を眺めている。

 かっこいいとはいえなかったが、穏やかで優しそうで少しだけ謎めいたところがあった。眞奈が彼を窓の魔法使いだと感じたのはそんな雰囲気からきていた。

 オースティン校長先生によれば、彼は子どもの頃に少女の亡霊と会ったことがあるらしい。ウィルの少年時代ならありえないけど、マーカスならもっともなことだと眞奈は考えた。

 この間、眞奈の日本の女友達が、新しい塾のクラスでどの男の子がかっこよく、どの男の子が気になる子なのか事細かにメールしてきたことがあった。
 眞奈も負けじとマーカスのことを書いたが、いまいちどう表現していいのか迷った。

 「マーカスはかっこよくはない」と正直に書いたら、イギリスやアメリカの男の子はかっこいいはずだと思い込んでいる日本の友達は関心を失ったようで、それ以来マーカスの話題は盛り上がらなかった。

 彼は眞奈の知っている日本人の男の子たちとは全然違う気がした。

 イギリスの男の子だから、そう感じるのだろうか? でもウィルとも違っているし……。

 やっぱりマーカスだから違うのだろう、眞奈は思った。

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