ガラスの境界、丘の向こう

1 ウィル、学校をさぼる


 数学の先生が「それでは今日はこれでおしまいにします」と言うやいなや、ウィルは「よしやっと昼休みだ! 行くぞ!」と、席を勢いよく立ち上がった。

「え、待ってよ」、まだホワイトボードの最後の部分をノートに取っていた眞奈は慌てた。

 ウィルは、「早くしろよ! 腹へったしさ」と、もたもたしている眞奈をせかした。
 しかし携帯メールの着信をチェックすると、「お、きてる!」と言ってもう一度席に座り、なにやらメールの返事を打ちはじめた。

 眞奈はほっとして、ゆっくり最後までノートを取った。

 ノートやペンケースをカバンに入れてやっと準備ができ、眞奈が顔を上げると、教室の片隅でイザベルがマーカスと立ち話をしているのが目に入った。

「マーカス、この間貸してくれた本だけど、とっても面白かったわ」とイザベルが言い、「よかった。けっこうダークだからどうかなぁと思ったんだけど」、マーカスがそう応えるのが聞こえた。

 眞奈がウィルと一緒にいるのと同じぐらい、マーカスもイザベルと一緒にいる。

 マーカスとイザベルは遠縁に当たり、互いの親の仲がよかったので生まれた頃からいつも一緒だったらしい。

 まさに幼なじみというやつだ。

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