ガラスの境界、丘の向こう
 眞奈はいくつもの廊下を歩き、いくつもの防火扉を開けた。

 あんのじょう道を間違えたようだ。辺りはシーンと静まりかえり閑散としている。
 最近授業が行われた気配さえない。セントラルヒーティングもきておらず、コートをはおっても寒かった。

 きっとこのエリアは空き教室になっているのだろう。

 眞奈は寒さと心細さに身震いした。

「完全に迷ってるわ……」

 このままではお昼時間が終わり授業が始まってしまう。

 眞奈は廊下のつきあたりを曲がると、さっきまで歩いていた場所にまた出てしまった。

「ぐるぐる同じ場所をまわってるんだ」

 眞奈は今来た廊下を振り返った。
「戻ろうかな……」

 眞奈は今まで部屋を探すのに必死で感じる余裕がなかったが、立ち止まってゆっくり見回すと、人気のない静寂につつまれた古いお屋敷はとびきり不気味だった。

 ――と、突然、何か黒い影が廊下の向こうで揺れているのが見えた。校長先生から聞かされた亡霊伝説の記憶が一気によみがえる。

「まさか、亡霊???」

 眞奈は息を飲んで黒い影を凝視した。恐怖で心臓が冷たくなる。

 しかし、よくよく見るとそれは廊下の掲示板の色あせた古いポスターが揺れている影だった。
 眞奈がそばを通った勢いではがれかけのポスターがたなびいたのだ。

 眞奈はへなへなと壁に寄りかかった。

「やっぱり大階段ホールまで戻って、事務のお姉さんに二〇八号室まで連れて行ってもらおう、ちょっと恥ずかしいけど」

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