ガラスの境界、丘の向こう
 女の子はイザベルと確かに似ているが、よくよく見ると明らかに違っていた。

 一番違うのはイザベルよりも愛嬌があるところだった。いたずらっぽい目がリスみたいにかわいい。微笑みは屈託がなく陽気で愛らしかった。

 眞奈は思い切って聞いてみた。
「あなたの名前は何ていうの?」

「ジュリアよ。ジュリア・ボウモント。あなたの名前は? あなたはイギリス人なの?」

 眞奈が大昔のイギリスではめずらしい容姿をしている以上、ジュリアの疑問はもっともであった。

「私の名前はマナ。私はイギリス人じゃなくって日本人よ。日本は中国の近くの小さな国なの」
 眞奈はそう言いながら心配になった。

 この時代の人たちは中国でさえも知らないかもしれない。だいたい何時代の女の子かもはっきりしてないし。

 ところがジュリアは中国を知っていた。

「まぁ、中国! この間おじさまが買ってきた中国の陶磁器はおじさまの大変な自慢よ。とっても素晴らしいの」、とジュリアは目を輝かせて言った。

 眞奈はジュリアが中国の創作物を褒めてくれたのでうれしくなった。

 眞奈は言った。
「でもイギリスにだって良い陶磁器はいっぱいあるよね? 陶磁器だけじゃなくって、建築とかガーデンとか文学とか。イギリス文化ってすごい素敵だと私はいつも思ってるわ」

 歴史の教科書で習ったところによれば、イギリスの秀逸な文化はジュリアたちが生きていた大昔の時代につくられたものが多いはずだった。

「まぁ、ありがとう」
 ジュリアも自分の国の創作物が褒められてうれしかったのだろう、にっこりと微笑み返した。

「でも色とか絵柄とかあのオリエンタルな雰囲気が好きなの、私。中国の陶磁器のままごと用ティーセットを持っていてよく遊んだわ。懐かしいわね。中国ってどんな国なのかしら。行ってみたいわ」

「中国もそうだし、日本もそうだし、東洋の東もいいところよ、今度日本にぜひ遊びに来てね」

 大昔の時代の亡霊を日本に誘うなんて変だよね。眞奈はちょっとおかしくなった。

 眞奈はなぜかジュリアの前では緊張もせず、自然に笑顔になるのだった。ジュリアの愛嬌がそうさせるのだろうか。

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