ガラスの境界、丘の向こう
眞奈は謎につまされたようだったが、グラディスが真面目顔だったので、黙ってうなずいた。
「でも、ジュリア、あなたは本当に平気なの?」
「私は平気よ」
「でもエマっていう女の人、なんだか嫌な感じだったよ、意地悪されるの?」
「エマは私の義理のお姉さまなの。だから私は大丈夫よ」
「義理の姉?」
「そうよ。エマと一緒に話していたのはお兄さまのリチャードよ。エマはリチャードの妻なの」
「え、つまりお兄さんも一緒に何か企んでいるってわけね? 五月って何なの? 侯爵が来たとき相談して最終的に決めるって何のこと?」
「そんな、企んでいるなんて……。五月には舞踏会があるの。きっとパーティの計画のことよ。今年の夏に予定しているイタリア旅行についてヴィッテッリ侯爵に相談したいんじゃないかしら」
ジュリアは、それ以上質問するスキを与えないように眞奈をぎゅっと強く抱きしめた。
「マナ、早く行った方がいいわ。村の子が忍び込んでいるのが見つかったら、お姉様は烈火のごとく怒るわよ、きっと罰としてひどいことされちゃう。私だって困ったことになるわ。マナ、さぁ、早く!」
「罰! 罰って何?」
眞奈はエマの人柄が心配だったためなおも聞き出そうとしたが、ジュリアは何も言わなかった。
眞奈はしぶしぶその場を離れて、グラディスの指し示した通路に足を向けた。
眞奈が振り返ったとき、反対の廊下を足早に立ち去って行くジュリアの後ろ姿
と、エマたちがいる部屋に入るグラディスが見えた。
不意に、ジュリアも一度振り返った。ジュリアは『大丈夫よ』と言いたげににっこりした。そして行ってしまった。
「でも、ジュリア、あなたは本当に平気なの?」
「私は平気よ」
「でもエマっていう女の人、なんだか嫌な感じだったよ、意地悪されるの?」
「エマは私の義理のお姉さまなの。だから私は大丈夫よ」
「義理の姉?」
「そうよ。エマと一緒に話していたのはお兄さまのリチャードよ。エマはリチャードの妻なの」
「え、つまりお兄さんも一緒に何か企んでいるってわけね? 五月って何なの? 侯爵が来たとき相談して最終的に決めるって何のこと?」
「そんな、企んでいるなんて……。五月には舞踏会があるの。きっとパーティの計画のことよ。今年の夏に予定しているイタリア旅行についてヴィッテッリ侯爵に相談したいんじゃないかしら」
ジュリアは、それ以上質問するスキを与えないように眞奈をぎゅっと強く抱きしめた。
「マナ、早く行った方がいいわ。村の子が忍び込んでいるのが見つかったら、お姉様は烈火のごとく怒るわよ、きっと罰としてひどいことされちゃう。私だって困ったことになるわ。マナ、さぁ、早く!」
「罰! 罰って何?」
眞奈はエマの人柄が心配だったためなおも聞き出そうとしたが、ジュリアは何も言わなかった。
眞奈はしぶしぶその場を離れて、グラディスの指し示した通路に足を向けた。
眞奈が振り返ったとき、反対の廊下を足早に立ち去って行くジュリアの後ろ姿
と、エマたちがいる部屋に入るグラディスが見えた。
不意に、ジュリアも一度振り返った。ジュリアは『大丈夫よ』と言いたげににっこりした。そして行ってしまった。